大阪高等裁判所 昭和35年(ウ)337号 決定 1960年5月30日
申立人 荒木已之助
訴訟代理人 原田永信
相手方 有限会社駒木建材店
主文
本件強制執行停止の申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
本件の第一審たる神戸地方裁判所尼崎支部は原告たる申立人の請求の一部を認容し、相手方(被告)は申立人(原告)に対し、金二十八万七千七百円及びこれに対する昭和三十一年十二月二十六日から完済迄、年五分の割合による金員を支払うべき旨の判決をなすと共に、右申立人の勝訴部分について、金九万円の担保を条件とする仮執行の宣言をなした。そこで相手方は右判決に対して控訴し、当庁に係属していたところ、申立人はその間に、右仮執行の宣言を附した第一審判決正本に基いて、相手方が別件(神戸地方裁判所尼崎支部昭和三一年(モ)第四四三号事件)において供託した供託金三十万円について、債権差押並に転付命令を受けた上、右転付金を取得した。然るに当裁判所は右控訴事件について審理をした上、前記第一審判決中、申立人(被控訴人)の勝訴部分を取消し、その請求を棄却すべきものと判断し、昭和三十五年三月十六日その旨の第二審判決をなすと共に、なお相手方(控訴人)の申立に基き、民訴法第一九八条第二項を適用して、申立人(被控訴人)は相手方(控訴人)に対して、前記仮執行によつて給付を受けた金三十万円を返還すべきことを命じた経過であつて、申立人が、右第二審判決に対する上告の提起に伴つて強制執行の停止を求めているものは、即ち右第二審判決中、前記仮執行によつて給付を受けた金員の返還を命じた部分に外ならぬことは、一件記録上明かである。
ところで民訴法第一九八条第二項に所定の、仮執行により給付したものの返還及び損害の賠償を命じる判決は、仮執行の結果生じた財産関係における原状の破壊を、簡易迅速な手続によつて是正し、仮執行がなされなかつたと同一の状態を回復せしめることを目的とするものであるから、同条に基く判決は、これについて仮執行の宣言を要せず、その言渡によつて当然即時に執行力を生じるものと解するを相当とするのであるが、右の強制執行については、民訴法第五一一条の規定はその適用がないものと解しなければならぬ。蓋し同条は、仮執行の宣言を附した判決に対して上告が提起せられ、且つその仮執行によつて、当事者に償うことのできない損害を生じることの疏明がある場合に、裁判所が強制執行を未然に阻止し、以て財産関係における原状を一時保持せしめ得ることを定めたものであるから、民訴法第一九八条第二項の裁判に基く強制執行を阻止し、以て仮執行によつて招来せられた財産関係における原状の破壊を持続せしめるが如きことは、民訴法第五一一条の律意の外にあることは明かであるからである。
よつて本件強制執行停止の申立は不適法としてこれを却下すべく、民訴法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 河野春吉 裁判官 本井巽)